elkurin’s blog

銀英伝はいいぞ

ウエストサイドストーリーのすすめ

昔々、こんな記事を書きました。

 

elkurin.hatenablog.com

 この記事の冒頭にこんな記述があります。

それなりにミュージカルオタクを名乗っている僕が推す三大ミュージカルの1つ、Jesus Christ Superstar 〜ジーザス・クライスト・スーパースター〜 がなんと来日するということで、僕的なおすすめ要素を紹介します。ちなみに僕が推す三大ミュージカルは「オペラ座の怪人」、「ウエストサイドストーリー」、「ジーザスクライストスーパースター」の3つです。

そう、ウエストサイドストーリー!

三大ミュージカルの一つウエストサイドストーリーが現在来日中です!今まで2回観に行って、それぞれの感想も記事にしています。

 

elkurin.hatenablog.com

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これはあくまで感想で、ウエストサイドストーリーをすでに知っていている人向けっぽい感じだったので、ジーザスの時みたいなオススメ記事を書いてみようかなと思います。なので是非みなさん見にいってみてください。

https://t.pia.jp/pia/events/wss360/

 

なんの話?

ジーザスクライストスーパースターと違って、ウエストサイドはみんな名前くらいは耳にしたことあると思いますが、元ネタはロミオとジュリエットです。ロミジュリは知っての通りモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットの立場を超えた悲恋の話ですが、これを現代版にしたのがウエストサイドストーリーです。家の対立を非行少年グループの対立に置き換え、時代や場所を貧困層の移民が大量に来ていたアメリカに置き換えているので、ロミジュリに比べてかなり生活レベルが下がりました。ジーザスクライストスーパースターも、キリストの話を現代版にした結果革ジャン来て壁に落書きしてる不良になってたし、「現代化」とは「不良化」みたいなイメージでもあるんですかね。

このミュージカルはベースが古来から伝わる有名な戯曲なので、物語の大枠はテンプレ通りです。ですが、その味付けの仕方が秀逸で1950年代に生まれてから今までずっと有名であり続ける名作になったわけです。

ポーランド系移民からなる非行グループ「ジェット団」(ロミジュリで言うところのモンタギュー家)とプエルトリコ系移民からなる非行グループ「シャーク団」(キャピュレット家)が抗争を続けているマンハッタン。アメリカ生まれのガキが集まるジェット団のシマに新参者のシャーク団がやってきてからナワバリ争いが始まって今や顔を合わせれば小競り合い、しかしお互い捕まるわけにはいかないから、あくまで警察の目を免れる程度に喧嘩。そんな中ポーランド系移民のトニー(ロミオ)とシャーク団のボスの妹マリア(ジュリエット)が恋に落ちるんですが、やっぱり立場上敵同士なので色々と大変で、どれくらい大変かと言うとそれだけでミュージカルが1本できてしまうくらい大変で、トニーとマリア、そして2つのグループの抗争の一部始終を描いたのがウエストサイドストーリーというわけです。一応ネタバレ要素は別項目に分けたので、詳細は次の項目で見てください。

じゃあどういう人が見たら面白いのかですが、結論は目と耳が機能しているやつ全員です。実はこの記事なかなか筆が進まなくて、そもそもなんで僕はウエストサイドストーリーを勧めようとしているんだろうと考えてみたところ、答えはシンプルで「なんかすごいから」です。なんかこう、何も考えずにただ圧倒されて「すごい!」って気持ちになれます。なので何かすごいものを観たい人にオススメです。どの辺がすごいかというと、なんか曲がすごいし歌もすごいしダンスもすごいです。ウエストサイドストーリーは歌とダンスがミックスしているタイプのミュージカルの先駆けであると同時に最高峰の難易度を誇ります。まず歌が本当に難しい。難曲オンパレードで多分あらゆるミュージカルの中で最高難度。なのに、歌って踊らなければいけない。「歌えるし踊れる」と「歌いながら踊れる」は天地の差があって、足挙げたりバレエジャンプしたりしながらなんと音程を合わせていい声で歌う必要があるんですね。ダンスも適当にステップ踏んでる程度では許されなくて、ガチ振り付けだし専門技術求められるタイプのやつです。さらにオケの音楽も難しい。一歩間違えるとテンポないよぉみたいになる。しかも曲がなんかすごい上手いんですよね、盛り上がり方とかリプライズの使い方とか、無意識のうちに引き摺り込まれてしまう。と、素人目にもすげえ難しいことが同時に起きていて、しかもそんな歌手兼ダンサーが舞台上に何十人もいる。なんか、すごい。ストーリーと関係なく、なんか、すごい。あれを初めて観たときの感動というかなんだろう、巨大感情?は今でも忘れられなくて、私の人生の中で最もびっくりした出来事です。そう、なんかびっくりするんだよね。感動とはちょっと違う。そういうびっくり体験を求めてる人にもオススメだと思います。残念ながら、今来日してる公演は僕の元祖びっくり体験@Broadwayよりはびっくり感が劣るんですが、それでも何度見てもやっぱりすごい!びっくり!という気持ちになります。ほんとすごいんですって。

https://t.pia.jp/pia/events/wss360/ みましょう

とまあ、「なんか、すごい」ってもうノリと勢いで伝えるしかなくて、ずっとノリと勢いで話していても仕方ないので、すごい!以外に解説できることを言葉に落とし込んでいきたいと思います。

 

ネタバレありのストーリー

先述の通り、警察に許される程度で喧嘩をやってきたのが、紆余曲折あってついに決闘するぞーとなり、いざ宣戦布告をしようという場で、トニーとマリアが出会いお互い一目惚れする。しかし、その関係は敵対する組織間ではタブーであり、彼らをよそにジェット団とシャーク団は決闘を行うことになる。平和を求めるマリアの願いでトニーはその決闘を止めようと現場に駆けつけるが逆にそれが引き金となり、素手の喧嘩のはずがナイフを持ち出した殺し合いへ発展し、ジェット団ボスのリフ(ロミジュリで言うところのマキューシオ)はトニーに邪魔された隙をシャーク団ボスのベルナルド(ティボルト)に突かれて殺される。親友であったリフの死を目の当たりにしたトニーは逆上し、ベルナルドを刺殺してしまった。兄がトニーに殺されたと聞いたマリアは取り乱すもトニーと2人で立場や人種の違いなど関係ない場所で生きたいと願って夜逃げしようとする。それを見つけたアニータ(ベルナルドの彼女でマリアの姉みたいな感じ)は、トニーは兄ベルナルドを殺したやつだからやめろと必死に止めるが、結局2人の愛の強さに理解を示し、トニーへの言伝を引き受ける。それは、シャーク団がトニーへ復讐しようとしているから逃げろというトニーを守るための言伝だったが、ジェット団の面々は自分たちのボスを殺したやつの女の言葉など信じることができず、腹いせのような形でアニータにレイプまがいのことまでやってしまう。すんでのところで邪魔が入りアニータは逃げられたが、怒り失望したアニータは「マリアはトニーとの関係がバレて仲間に殺された」と嘘を言ってその場を後にする。アニータの言葉を真実と思ったトニーは自暴自棄になり俺を殺せー!と叫び回る。そこに現れたマリアの姿を見てトニーは全てが嘘だったと気づき駆け寄ろうとするが、その瞬間にシャーク団のメンバーの手によって射殺される。銃声を聞いてジェット団シャーク団双方の仲間が駆け付けるが、トニーはマリアの腕の中で息絶えている。それを見守っているメンバーたちに向かってマリアは「トニーもベルナルドもリフもみんなが殺したんだ!」とか叫び、トニーを殺した銃を奪い取って、その場にいる全員を自分も含めて殺してやると言うが、近づこうとする警察からトニーを守るようにその場になだれ落ちる。マリアの振る舞いや言葉に心打たれた(気圧された?)少年たちはついに敵同士手を取り合い、トニーそしてベルナルドとリフの死を悼んで幕を閉じる。

 

作品全体の雰囲気

曲については、音楽に特に興味のある人は流石にウエストサイドの曲は知ってる気もするし、ウエストサイドといえば曲がすげーみたいなので有名なのでもう話さなくていいでしょう。というわけでストーリー重視でいきます。一言でまとめると「ウエストサイドストーリーとはロミジュリのリメイクです」と言うことになるんですが、そんなもんストーリーもだいたいわかるし何が面白いねんと。というわけで、作品の特徴を伝えようと思います。ベタ誉めみたいな感じにはならないので、これ読んで興味ありそうと思った方は相性いいんじゃない?みたいなスタイルでいきます。

作風と言われた時に一番印象的なのはリアルさです。いろんな意味でかなりリアルでおとぎ話感がありません。元のロミジュリは知っての通りおとぎ話みたいなもんですが、それをうまく現実社会に落とし込んでいます。が、私が言いたいリアリティというのはそういうことではなく、世界観や登場人物、描写の仕方が恣意を感じさせないし夢物語のような綺麗さもない、ということです。

まず世界観について。作中喧嘩のシーンとかあるんですが、特に冒頭、序曲をバックにシャーク団とジェット団のバトルが長く描かれます。このシーンは私が好きなシーンNo.2にランクインしているんですが、とても面白いんですよ。こいつらの喧嘩はどう勝ち負けが決まるか、それは数です。世の真理ですね。すげえ腕の立つ主人公みたいなのはいません。シャーク団が一人で歩いているところにジェット団2人組が出くわすとイキリ倒す。しかしシャーク団の一人が近くの仲間を引き連れて3人で戻ってくると、今度はそっちがイキってジェット団2人組は手のひらクルックルで退散、そしてさらに仲間を引き連れて帰ってくると。数は力なり!ってね。この辺りのシーンがほんと大好きで、あれを見るために足繁く通ってるみたいなところある。で、こんな小競り合いを続けていても仕方ないということで決闘をするわけですが、その前に"War Council"と言って武器や場所の取り決めをジェット団とシャーク団でやります(いやWar Councliてなんだよ、厨二病か?)。そこで提案される武器候補は「石!」「レンガ!」「缶!」とかで非行少年の喧嘩って感じがします(いや缶でどうやって戦うんだよ)。ナイフで戦うシーンもあるんですが、その時はもう使ってる本人たちがビビってて、普通そうだよなわかるわかるって気持ちになります。こんなにバトルばっかりして仲の悪いシャーク団とジェット団ですが、唯一団結する時があります。それは警察がいる時です。"War Council"の現場に警察がやってくると、それまで一触即発だったシャーク団とジェット団の面々は決闘についてバレないように全員だんまりで、仲良くしているかのように肩を組んでみたり一緒に飲んだりしています。ちょっと面白いですね、そのまま仲良くしてればいいのに。そして、この作品では主要メンバーが死ぬわけですが、彼らが死ぬシーンは決してドラマチックではありません。すごいあっさり死んじゃいます。人が死ぬ時ってこうすんなり来ちゃうんだよなと実感しました。

そして描写の仕方について。この作品は心情描写みたいなのはほとんどありません。イベントを淡々と綴っていくスタイルで、一人語りとか内的感情を発露するようなシーンは皆無です。また、登場人物の過去や背景についての言及は必要最小限だし、実際ドラマティックな特別設定などない普通の人間なんでしょう。なので、見ている側が登場人物にのめり込んでいくタイプの作品ではないと思います(僕は最近リフにのめり込んでますがね)。特にトニーとマリアの出会いはロミジュリに倣ってマジで一目惚れだし、出会って初めての会話も「手が冷たいの。あなたの手も冷たいね」とかでお前ら死体やんって感じだし、その時の感情も「マリアっていうんだって!マリアっていい響きだね!一生マリアって言い続けるよ!」以外何も教えてくれないから、客目線の僕としては、は?って感じです。この一目惚れパートが唯一の夢物語要素ですね。一方主人公以外の多くのキャラに対しては、脚本家冷たいなあと感じるほどに扱いは悪いしキャラ内面も視聴者に放り投げられています。シャーク団の男たちに至っては、結構メインキャラのはずなのに全員で歌う曲以外1曲もありませんし、マリアの婚約者のチノに至ってはセリフが2個くらいしかありません。この辺りの登場人物たちには我々が頑張って想いを馳せるしかないですね。

登場人物のあり方についてですが、要するに潔癖な完全人間がいないんですね。例えば警察なんかは、別に悪徳警察ではないですがプエルトリコ人嫌いと公言したり、反撃されないとわかっているからこそ意味もなく警棒で非行少年を殴ってみたり。主人公2人もめちゃくちゃ薄情だしね。

こういったリアルさ、容赦のなさが私は好きです。こういった作風もあって、それぞれのキャラについて思入れがあるといったことにはなりにくいんですが、今私はリフがん推しなので、人間考察オタクは是非こちらを参考にしてください。多分オタクどもにはリフを気に入ってもらえると思います。

 

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実際のシーンを見てみよう


West Side Story - Prologue - Official Full Number - 50th Anniversary (HD)

まずは先に言及した冒頭の喧嘩シーンについて。この動画は1961年に製作された映画のワンシーンで、めっちゃ古いし舞台でもないし、なんか変な編曲入ってで変ですが、振り付けとか流れは舞台と結構同じです。街の中を走り回ったりするのは映画ならではで、普通舞台ではやりにくいんですが、今来日しているウエストサイドストーリーの舞台は360度全面舞台で客席が回る感じであり、役者が実際に走ってます。移動感が出ていいですね、あと客席の間の通路とかも走り回ってました。走り回ってバリバリ踊ってこの後歌も控えてて大変ですね。特にジェット団はこの直後にJet Songというこれまた音程もリズムも難しい曲が控えており、ボスのリフさんは難しいソロパートが始まります。このミュージカル、体力づくりが肝心っぽいな。Jet Songは途中で切れてますがこれです。→ https://www.youtube.com/watch?v=twbuT1V5mFE

いやあ。見事に歌えてないですね。今来日中の舞台のリフは結構上手いです、少なくとも音程は大丈夫。かなりクオリティが高くて、さらに舞台装置も今回はかなり凝ってるので見応えたっぷりです。僕は最初の序曲観ただけでだいぶ興奮しました。 

 


West Side Story - Dance at the Gym (Mambo) - Official Dance Scene - 50th Anniversary (HD)

これまた途中までで1961年の映画版ですが、僕のNo.1一押しシーンのMambo!も貼っておきます。これは決闘の申し込みをするために、中立地帯の体育館のダンスパーティに参加しているシーンですね。中立地帯とは言え当然穏便なはずがなく、ダンスバトルが始まるんですが、これがめっちゃ上手いダンサーたちで見れます。見たいでしょう?見たいはずです。アメリカ式とスペイン式が上手く表現されていて見てて面白いし、今回の来日公演版ではリフが彼女の手を撮るシーンがかっこいいんですわ〜〜〜。

あと、有名なAmericaという曲もありますね。まさに歌いながら踊る必要がある鬼畜ルーティン。特別好きな曲ではなかったんですが、ちょっと今回の来日公演のやつはすごいっす。トップを務める人がめちゃくちゃ歌もダンスも上手くて、ブラヴィーって感じでした。これぞ「なんかすごい!びっくり!」体験。映画版の動画だと、もう歌詞も違うし歌ってる役も違うしダンスもあんましてないし変なオリジナル曲ついてるし完全別物なのでサンプルなしにしときます。

実は2020年にスピルバーグがリメイクを作るらしいです。今は映像が1961年のやつしかなくて考察したいオタクとしてはかなり辛いものがあるんですよ。ぜひスピルバーグさんに期待したいところですね。