elkurin’s blog

銀英伝はいいぞ

ジーザスクライストスーパースター@シアターオーブの感想

 半年前にこんな記事を書きました。

elkurin.hatenablog.com

そのジーザスクライストスーパースターの公演を今日観に行ってきました。そのことについて、感想過多で言いたいことがあまりに多いので、書いていきます。

聴衆について

このことには言及せずにはいられません。ジーザスのミュージカルは、色々皮肉の効いた演出が多く、確かに難しい作品かもしれません。

例えば、シモンが「民衆はジーザスが言ったことに従うから、大量の民衆たちのローマへのヘイトを煽って戦わさせれば勝利と栄光を得られる!」と民衆と一体になりながら盛り上がる歌。


Simon Zealotes - 2000 Film | Jesus Christ Superstar

この曲はめちゃくちゃテンションが高くて曲調も楽しく、すごく盛り上がる曲です。確かに英語がわからない人は「なんか楽しい感じなのかな?」とノリノリになってしまうでしょう。しかしこの曲の本質は、「力を得て狂った異常な民衆たち」です。愛を説き許しを広めるジーザスにとって、戦争なんてものは当然思想の真反対です。ジーザスの話に耳を傾け側で支えてくれていたはずの民衆たちは、実は彼の愛や許しなど何も聞いておらず、ただ私たちの立場をよくしてくれそうな偉い人に付き従っていたわけです。この異常性に気付いているのは、ジーザス本人とユダ、そしてジーザスの様子をよく見ているマリアだけ、という場面であり、楽しくノリノリなのは表面だけ、その歪さこそが本当に描きたいものです。こういう描写が私は本当に好きなんですよ。

しかし、今日のお客さんにはどうやらその皮肉が伝わらなかったようです。なんと、シモンの歌に合わせて立ち上がり手を叩き一緒に体を揺らしていましたそもそも、ミュージカルにおいて歌の最中に立ち上がったり音を立てたりというのは重大なマナー違反ですがそれはこの際置いておいて、この作品の何を観ていたんだ、何を聴いていたんだと疑わざるを得ませんでした。

また最後のキリストが磔にされる前の曲ですが、この曲の歌詞はジーザスを小馬鹿にしているかのような挑発的なものであり、周りがバカみたいに騒ぎ立てて煽りテンションが上がっているような曲です。やはり愉快で軽快でノリノリな曲調です。


Superstar - 2000 Film | Jesus Christ Superstar

しかし、この曲をただ盛り上がるだけの楽しい曲だと思いますか?この単調なメロディに、呆れるくらいノリノリな曲調、そして助けてきた群衆には見放され弟子に裏切られそれでも民の罪(sin)を背負ってただ一人死んでいくジーザス。その歪さ、空虚さ、罪を一身に背負って死にゆくというのに誰も見ていないし気をかけてもいないし何も考えずに騒ぎ立てているだけの民衆たち。それこそがこのミュージカルのラストシーンで伝えたかったことだと私は思います。少なくともコーラスに一緒になって立ち上がり手拍子をして体を揺らすような楽しい曲ではないでしょう。しかしどうやら今日の聴衆は、最後の楽しいクライマックス曲だと思ったみたいで、私より前の人たいはみんな立ち上がって踊ってました。この作品の何を観ていたんだ、何を聴いていたんだ。

そう思って正直イライラしていたのですが、しかしこれは私の考察不足だったなと。そして以下の考えに至りました。

今回のジーザスクライストスーパースターは、「ジーザスの言葉に真面目に耳を傾けず、何も分からずにとりあえず周りに合わせて立ったり手叩いたり小躍りしてる馬鹿な群衆」役を客席が演じるという斬新な演出でした。このような人々がジーザスを死に追いやったんだぞという痛烈な皮肉が効いていて良かったです。

こういうことですね。

まあ、今思えばお客さんを一方的に責めるのは間違いかなとも思います。今回のコーラスの人たちは、めちゃくちゃ客席を煽って一緒に手拍子するよう促したり手を振るよう促したりしていました。前の方のお客さんにとっては、役者さんが目の前で自分にアイコンタクトしながら手拍子してほしいとパスを送っているのを無視してツーンと座っているのは酷な話でしょう。なので、責めるべきは演出家なのかもしれません。

 

歌手について

まず文句なしブラボーだったのが、ファリサイ派アンナス役アーロン・ウォルポール、そしてヘロデ王役の成河。天晴れです!開演前キャストを見ていた時、アーロンはアンナス役のイメージとだいぶビジュアルが違うなあと思っていたんですが、声質は非常に魅力的で音程もバッチリ。アンナスの歌うシーンが少ないことが悔やまれるばかりです。そして成河はヘロデ王のわりには若々しすぎないか?と思っていたんですが、小さいくせに存在感がデカイ。歌い始める前から玉座に堂々と踏ん反り返っていて、うわ〜上手そう〜と期待していたら、実際歌唱力も抜群で、特に前半のふざけて軽いノリで歌っていた時とキレた後の声の切り替えが素晴らしいと思いました。エンタメ力も高く、よくあれだけ動き回って笑いを取りながら歌えるなと感動しました。

そして、マリア役のジョアンナ・アンピル。娼婦としてジーザスに接するうちに本気で好きになり、初めて恋という感情を持つキャラクターですが、ものすごく彼女のアリアに感動しました。群衆の前で娼婦としているときは下品な立ち振る舞いもあり歌い方もネチっこいんです。しかし一人になって、誰も聞いていないところでジーザスへの想いを歌い上げるシーンでは、下品さは一切なく声質もまっすぐ透き通るような美声。「どうしたら彼の心を動かせる?彼を貶める?大きな声で叫ぶ?愛を囁いて気持ちをぶつける?」と葛藤しながらも、それでもただジーザスを支えるために全てを封印して癒しの存在であり続ける姿に心を持って行かれ、初めてマリアという役を好きになりました。歌手というより俳優として素晴らしかったと思います。

他にも素晴らしかったピラト役のロバート・マリアン。ローマ総督としての強い一面と、その裏に隠している繊細な本性をとても上手く表現していたと思います。群衆が「ジーザスを磔にしろ!」と大騒ぎする異常性の中、敵であるはずのローマ総督ピラトのみはジーザスを殺したくなく必死に助けようとするために、鞭打ちで勘弁してやれと鞭打ち39回の刑(40は神の完全を表す数字であり、40回鞭打ちすると死んでしまうとされています)を決行するんですが、鞭打たれるジーザスの姿を見て非常に心を痛め、その悲痛さが鞭の回数カウントをする「One! Two! ... 」という歌詞に乗って伝わってきました。また、助けようと手を差し伸べても死のうとするジーザスに最後「そんなに死にたいなら勝手に死ね!」と言い放ってしまうんですが、その直後にハッと後悔し焦りながらも総督としての仕事を毅然とこなす姿がものすごく好きでした。

ところで私がもっとも好きなユダ役について。私が考察厨になった原因と言っても過言ではないユダですが、その役を演じたのはあのラミン様!来日するたびに公演やコンサートに駆けつけているようなラミンファンの私ですが、今日は正直なところ手放しで褒められるようなものではありませんでした。もちろん上手かったんですが、まだ初日だからか音程が怪しくてラミン様の本領発揮ではないなと感じてしまいました。そもそも歌い上げるアリア系が卓越しているラミン様にとって、斜めに構えたタイプのユダ役は切り札を封印されているような状態なので、2日後もう一度聴きに行く時に期待といったところです。しかしですね、俳優としてのラミン様は素晴らしかったと思います。ユダ役は「最愛のジーザスをジーザスのために裏切る」という、結論だけ聞いたら意味不明なポジションの役であり、しかしその行動理由はミュージカル中の歌詞だけでは説得力不足です。なので、役者自身が歌っていないシーンでいかに表現し、心情や頭の中を客に伝えるかが超重要な役です。その点について、ラミン様は非常によく役を解釈しいろんな場面で伝えてくれたなあと感じました。歌手としてのラミン様は昔から評価していましたが、俳優としても素晴らしい人だと知れたのは大きな収穫です。ちなみに、この演技はもちろんラミン様自身が素晴らしかったこともあるんですが、演技をする出番を与えてくれた演出家にも拍手です。悪い演出だと、歌うパッセージがない時には舞台に出さないこともあり、そうするとユダの心情はなかなか追えないんです。そこを、客の目線でよく見える場所にユダを配置してくれた演出家はわかってるぜ〜〜って感じです。

一方主役であるジーザス役の方については、うーん。うーーーーん。正直なところ、声質が弱くて、ユダとの言い合いのところも物足りなさを感じたり、高音が出ていなかったり、歌い始めたら空気を変えるような救世主らしいカリスマ性が見えなかったりと不満はあります。でも、ゲルセマネという音楽も歌詞も大変素晴らしい見せ場の曲では非常に力強く、他の曲での脱力具合からのギャップもあり、涙を流しながら耳を傾けていました。

最後にコーラス。今回はコンサート形式の公演だったので、アンサンブルはたった8人と少数で、時にジーザスの取り巻き、時にファリサイ派の信徒、時にクスリの売人といろんな役を演じていました。特にジーザスの取り巻きは「数が多い」ということを強調しないといけない中たった8人でどうするんだと思いましたが、8人だけとは思えない音圧で歌い上げており、また全ての役回りでキャラを切り替えていて、見ている側も今何役を演じているのかすぐにわかり、大変素晴らしかったと思います。

オケについて

今回はオケといってもかなり少数編成で、なんとフルートとサックスを同じ人が持ち替えて弾いたりしていました(多分)。シンプルにすげえ。しかし、オケが全く歌手を見ていないし聞いていないのが気になりました。特にピラトの裁判の曲ではオケが速すぎて収まりきらず多分一箇所パッセージを飛ばしていました(ピラトとジーザスの問答の I look for truthのところ)。その他でも、ソリストタイプの歌手であるラミン様がタメたい聴かせどころでオケはすっ飛ばしていき歌とズレたりなど、あまり歌手と意気投合できていないなと強く感じました。でもまだ初日なので、これからもっと連携が取れるようになったらいいなと思います。

 

こんなところですかね。あと演出も結構良かったです。コンサート形式と聞いていたので、マイクの前で歌うだけかなと思っていたんですが、場面転換をよく表現していたし、特にTempleで大量の病人たちにジーザスが引っ張られて我慢の限界になるシーンは、アンサンブルがたった8人しかいないのに大量にいる感を上手く表現できていて、演出の可能性の大きさを感じました。

ジーザスクライストスーパースターは中学の頃から大好きなミュージカルで、ラミン様も来るということで期待が肥大化しすぎていた感もありますが、やっぱり物足りなさを感じたので、2日後(台風大丈夫だよね…?)また観に行く時を楽しみにしたいと思います。